カーブド・アイボリー 『黒い森の鹿』

ブローチ
ドイツ又はスイス 19世紀中期
5,1cm×4,8cm


僕はこの『黒い森の鹿』は希に見る象牙細密彫りの傑作だと思っています!

19世紀の象牙細密彫りでは、鹿のモチーフが最もポピュラーですが、この『黒い森の鹿』は普通の物とは全く違う芸術性豊かな作品です。

普通はフレームがあるのですが、これはフレームがなく、樹木の幹と葉が生い茂る枝、それに地面を円形にして、その中に三頭の鹿を配するという見事な構図です!

一般的な物のように、余分な装飾のフレームが無いことで、樹木と地面それに三頭の鹿が一体化して、黒い森に住む鹿のリアリティーを感じるのです!

上部の樹木も普通の物とは違う、とても立体感を感じる彫りで、生い茂った葉の隙間には奥にある枝や葉まで彫ってあるのです!

三頭の鹿のポーズがそれぞれが特徴のある物で、葉を食べている牝鹿、僅かに右を向いて遠くを見ている牡鹿、それにうつむき加減に右を向いて伏せている牝鹿を巧みに表現しています。

僕はこの 『黒い森の鹿』の作者は、単なる職人の意気を超えたアーティストだと思っています!
同じ物を正確に作るのが職人ですが、独創的な表現の作品を作るのはアーティストでなければ出来ないことですから!

こういう優れた象牙細密彫りは、身に付けられるかどうかなんてどうでも良くなります!
これは額装して小さな彫刻として鑑賞するのが一番です!

でも怖がらずに黒いベルベットのドレスの胸に付けたら、高価なダイヤモンドのブローチよりずっと注目を浴びること請け合いです(笑)

うっそうと生い茂った樹木はとても立体感を感じる彫りで、所々開けられた隙間の奥にまで彫りを入れることでよりいっそうの立体感を出そうとしているのです!

気が遠くなるような沢山の葉を彫っているので、隙間の縁に一枚一枚の葉を彫ったうえに、穴を彫ってその奥に多数の葉が見えるような彫りが如何に大変なことかが解るというものです!

こういう仕事は、もの凄い集中力と根気がなければ出来ない仕事です。

ちょっとでもミスをしたらすべて最初からやり直しなんですから・・。

右側の樹木の表現も見事です!

途中に細い枝をさりげなく彫っていますが、これもよく考えてみると、自然の木の枝のように彫り出して隙間を開けるのは至難の技なのです。

樹木の木肌と右下の切り株に表現も秀逸です。

牡鹿の鼻先と口、それに首の毛の彫りは、黒い森の住人である作者ならではのもので、鹿と身近に接していたから表現出来ることだと思います。

牡鹿の角のどの角度から見ても実物のように立体的に彫られています。

牡鹿と牝鹿それに樹木の間も僅かの隙間を開けて彫ってあります。

牝鹿の右前足が樹木からちょっとはみ出している表現も良いですね〜♪



牡鹿の角の補修した箇所がありますが、これだけの作品でこの価格なら十分に許せる範囲のことです。


樹木の小枝の彫りは実に見事です!

左下のこんもりした葉と奥の肉眼では見えない程の葉の透かしは、とても人間業とは思えないほどです!
牡鹿の彫りは圧巻ですね!!

黒い森の住人である作者ならではの観察力を感じますし、豊かな自然の中で生きていたからこその表現力だと思います。

牡鹿の頭部の微妙な立体感と首の毛の表現には見惚れてしまいます!

牡鹿の首から背中にかけてのラインや、胴体の立体感の表現も素晴らしいものです。

牡鹿の頭部と牝鹿の頭部の間に樹木の幹が見えますが、ここは非常に彫りにくい位置にも関わらず、途中の葉の茂りや根元の部分まで細密に彫ってあるのには驚かされます!

一番手前に牡鹿をその後ろに伏せてる牝鹿を彫り、一番後ろに葉を食べている牝鹿を彫っているのですが、三頭の鹿を隙間を開けて、それぞれを独立させて彫ってあるのです!!






右の牝鹿の頭部や後ろ左足も表現は下の拡大画像でお話致しましょう。

僕はこのような象牙細密彫りの作品を、日本ではだれもその存在すら知っていない35年前から扱っていますが、複数の鹿のモチーフで、それぞれの鹿をこれだけ巧みに彫った作品は初めてです!!

今まで相当な数を見ていますが、この『黒い森の鹿』は、三頭の鹿の向きが違い、ポーズも違うのです!

葉を食べている牝鹿は少し斜め左を向いて上を向いていますし、牡鹿は真横を向いて遠くを見ていますが、伏せている牝鹿は少し右を向いて伏せてさらに首を右に向け、少しうつむき加減のポーズです。

想像をしてみてください一枚の象牙の板からこのようなポーズを彫り出すのが如何に難しいことか!!
同じ方向を向いている三頭の鹿を彫るのとは訳が違うのです!

そして左の牝鹿が葉を食べているポーズにしたのには意味があるのです。
中央の木の葉とつなげることで、上部の支えになるので強度の問題も解決されるからです。

牡鹿もそれと同じ意味で、角の上部が木の葉とつながっていますし、中央の樹木の幹ともつながっているのです。

それに伏せている牝鹿の尻も樹木の根元につながっています。

つまり、中央の樹木の幹は三頭の鹿の支えとしてに役割があるのですが、そんな風には見えないごく自然な構図に見えるところが、この作品の凄いところです!!
そこに作者の非凡な才能を感じるのです!

この角度で見ると、中央の樹木の中間の葉の茂りが可成り立体的に彫られているのが解りますが、ここは牡鹿と牝鹿の間でしかも一番奥にあるので、これも彫るのが非常に難しい部分です。

立っている二頭の鹿の細い足が4本とも独立して彫られていますが、これが可能なのは、中央の幹の支えが効いているからです。

伏せている牝鹿の顔がとても良い彫りなのも解ります。

草に覆われた地面と樹木の根の彫りも見事です。

裏を見るとちょっと以外でしょ?

でも中央の樹木が強度を持たせるのに重要な役目を果たしているのが解ります!

鹿や幹も裏から見ても結構立体感を出してあるのに感心します。

ブローチのピンと受けは、金ではなく粗末な物ですが、これもオリジナルなのです!
19世紀のドイツのカーブド・アイボリーのブローチは、当時は高価な物ではなかったということなのです。どんなに素晴らしい作品でも全部このようなピンと受けが付いているものなのです。

このことは、ドイツとスイスの国境付近の物価も安かった田舎で作られた物で、パリのような大都市の金細工師が作った作品などとは比較にならないほど、値段が安かったからなのです。

これだけの彫りが出来る職人の工賃が信じられないほど安かったことを考えると、何だか同情したくなってきます。
でも、このような素晴らしい作品を見ていると、恵まれた自然の中で貧しくても生き生きとした生活をして、毎日毎日良い物を作ろうとした職人の心意気を感じて、僕は心に熱いものを感じます!

だから僕は昔からこの手のカーブド・アイボリーが大好きなんです!♪

だから、現代の作家と称する職人の出来損ないが、こういう物を復刻したと称して下手くそな物をアンティークの数倍もの値段でデパートで売っているのが許せないのです!


上部の変色している部分はシールを貼った跡で、これは奇麗にすることが出来ます。
牝鹿の目とその下の皮膚のシワの彫りも良いですね〜♪ 牝鹿の左後ろ足は地面に少しめり込んであるように彫ってありますが、芸が細かいですね〜♪
作者はきっと完璧主義者に違いない!


ページトップ

Free Call 0120 974 384 年中無休。平日 AM 10:00 - PM 11:00 、土日 AM 11:00 - PM 11:00。携帯電話もOK