クロワゾネ・エナメルは、日本の素晴らしい有線七宝の影響を受けたエナメルで、金線で縁取りした中にエナメルを施した物です。

ヨーロッパのエナメルの中でもクロワゾネ・エナメルは、他のエナメルの技法とは桁違いに少なく、僕が過去に扱った中ではAlexis Falize作のボタンセット以外には見たことがありません。

Alexis Falize作のボタンセット

江戸時代までの日本の七宝は、ヨーロッパのエナメルのように透明感のある物ではなかったので、この『パンジー』のクロワゾネ・エナメルのように透明感のある美しいグラデーションのクロワゾネ・エナメルは、日本の有線七宝を手本にしてより進化したエナメルと言えるでしょう。

明治時代になると、この『パンジー』のクロワゾネ・エナメルのような透明感のあるクロワゾネ・エナメル（有線七宝）が今度は日本の有線七宝にも取り入れられ、日本でも透明感のある素晴らしい有線七宝の壺や皿が作られるようになり、ヨーロッパでも人気を博するのです。

【ジャポニズム】
日本の芸術は1850年代からヨーロッパに大きな影響を与えました。
1853年から1854年に日本は貿易の制限を解除したので、膨大な数の工芸品や骨董品がヨーロッパに輸出され、１８７８年のパリ万博で「ジャポニズム」は最高潮に達し、日本の工芸品は数々の賞を取りました。ちょうどフランスでは、美術工芸のあり方が大きく変革しようとしていた時期で、印象派に代表される絵画や工芸界の産業美術は新しい展開を求められていました。そこへ日本の工芸・美術の登場は、欧米の作家に強烈な影響を与えたのです。陶器のミントン社やガラスのバカラ社は浮世絵の図柄を取り入れた製品を作っています。

日本も明治新政府に変わり、万博を舞台に日本を積極的に売り出す政策を進めた。やがて日本の美術工芸は、世界から「ＡＲＴ」として認められ、個人コレクターのみならず、欧米の美術館が競う蒐集の標的となりました。そして、日本の優れた公家遺品の大量流出が繰り広げられ、外国人であるモースやフェノロサが日本文化財の流出を憂える程だったのです。