トレドワーク バングル
トレドワーク(ダマスカス象嵌) バングル

スペイン 1887年
スチール、金象嵌、ゴールドケース(金張り)
外周18,8cm(普通サイズ)
Sold


このバングル(バングル)を見て、徒者ではないな?と感じられた方は、良い物見分ける眼を持っていらっしゃる方です!

このバングルは、金と黒のコントラストが美しいスペインのトレド・ワークと呼ばれる象嵌細工です。
中央の鳥と枠が浮き彫りになっていて、象嵌された金の草などにも細かく彫りが入っています。
トレドワークは、ニエロや日本の布目象嵌などと似ていて、鉄を酸や熱などで黒くして、そこに金や銀を象嵌しています。
写真には映りにくいのですが、黒地の金属の表面には、ハッチング(網目模様)がされており、その上から象嵌を施していています。
バングルの枠も、凹凸二種類の点が打ってあるという趣向です。
全体的に色彩だけでなく、高さにもコントラストが感じられるのは、象嵌細工ならではです。

このトレドワークのバングルは絶対に二度と出会うことの無い貴重な美術品なのです!!

ちなみに、英語では金属に金属を象嵌することをダマスカス象嵌(Damascening)と呼んでいます。
なぜ、ダマスカスなのか?
そしてなぜ、それがスペインの名産品なのか? それもこれからお話いたしましょう。


トレド バングル 実物大 正面
1円玉サイズ ←実物大→
ブラウザによって大きさが違いますが、1円玉(直径2cm)を置いてみれば実物との大小の比率が分かります。

トレド バングル 実物大 全体

トレド バングル 後ろ

正面裏には百合(?)の花が高肉彫されています。
この腕輪の注文主は数十の称号をもっていたはずなので、そのうちのどれかを意味しているのかもしれません。

トレド バングル クラスプ

クラスプや蝶番には、美しいパルメット文があしらわれています。

トレド バングル 刻印
トレド バングル 刻印2

Recuerdo del 4 de Febrero de 1887
Casa de La Duquesa de Alba.

1887年 2月4日を記念して。
アルバ公爵(夫人)家。

 

『アルバ公爵』

このバングルに刻まれているアルバ公爵というのは、ヨーロッパ屈指の名家で、1472年にガルシア・アルヴァレス・デ・トレド伯爵が、カスティーリャ王エンリケ四世にアルバ・デ・トルメスの公爵に封ぜられたことに始まります。

この時代の公爵夫人は、María del Rosario Falcó y Osorio (1854-1904) といい、バダホス県出身の彼女自身もシルエーラの22代伯爵というグランデ(スペインやポルトガルの最高貴族)でした。

彼女が16代アルバ公 Carlos María Fitz-James Stuart, 16th Duke of Albaと、1877年10月10日にマドリードで結婚しているので、バングルに刻印されている日付とは違いますがその10周年記念に、親しい人に贈った物だと思われます。

ダマスカスの金属工芸

金銀を鉄、真鍮などの他の金属に象嵌することをダマスカス象嵌といいます。
それではなぜダマスカスというのでしょうか?

現在、「ダマスカス」と呼ばれている技法には、ダマスカス鋼とダマスカス象嵌があります。
それを以下でご説明します。

ダマスカス鋼

ダマスカスは特殊なダマスカス鋼を用いた波紋の美しさと切れ味の良い剣で有名でした。

そのルーツは、インドのウーツ鋼にあると言われています。原材料の特殊な配分の不純物を含む鉱石が採れなくなり、19世紀には技術も廃れてしまいました。

見かけだけは、2種類の金属を鍛造するなどして現在も作られているようです。日本では木目金などの装飾技法があります。

おそらく、象嵌技法もその刀剣製造業に付随して発達してきたのではないでしょうか?

右の写真:Wikipediaより

ダマスカス鋼

ダマスカス象嵌

鉄などに金銀を施す象嵌は、ダマスカスで14世紀頃まで行われていましたが、チムールが遠征してきてダマスカスの職人をほぼ全員サマルカンドに連れて行ってしまった為に、ダマスカスでは象嵌を含めて産業全体が荒廃してしまいました。

ヨーロッパへの伝播

ダマスカス鋼自体はヨーロッパには伝わらず、象嵌技法だけが伝わっているようです。
16世紀、アンリ四世治下のフランスで Cursinet という人物が象嵌技法を高度に完成したという記述があります。(Andrew Ure. 美術、製造、鉱物の辞典。 1875 New York)

その前に15世紀ごろからイタリア北部などで、鎧、刀剣、鍔などにダマスカス象嵌を施していたようです。

十字軍が持ち込んだとも、ヨーロッパに進出したイスラム教徒が持ち込んだとも言われます、戦争によって文化が伝播したのは皮肉でもありますね。

結局、皿、瓶などの大型の道具に施すようになっていったものの、工芸のレベル自体はチムール以前のダマスカスが最高で、以降は落ちていったようです。

ダマスカス象嵌 剣
剣の柄と鍔にダマスカス象嵌がされている。イタリア 15世紀 V&A 博物館
トレド バングル Palacio de las Duenas
デゥエニャス宮殿の庭  レモンとヤシの木

クラスプにはヤシ葉のような文様(パルメット文)をあしらっていますが、右のアルバ家の宮殿にも似たような風景があります。第18代アルバ公当主は2011年、この宮殿で結婚式を挙げています。

このバングルを贈った公爵夫人の結婚10周年にはこのような場所で祝われたのかもしれません。

トレドワーク 箱

某オークションに出ていたトレドワークの箱。1875年に Eusebio Zuloaga(1808-1898)が作ったとされています。

やはり、ハッチングを施した地に金を象嵌していますし、装飾の技法やデザインがこのバングルに酷似しています。

 

トレド バングル

公爵家の銘の反対側に、d と Z を組み合わせたようなモノグラムがあります。

ディーラーはメイカーズ・マークだと言っていましたが、後から引っ掻いて書いたようにも見えます。

もしかすると、Eusebio Zuloaga の息子で陶芸家、画家の Danial Zuloaga に関係があるのかもしれません。(これはただの推測ですが...)。
彼も父の元で金属工芸を学んだそうなので、彼が作った可能性があると思います。


トレド バングル

さて、申し遅れましたが、なぜスペインのトレドでダマスカス象嵌が盛んなのかお話します。

現在、このダマスカス象嵌は、トレド・ワークと呼ばれるほどスペインの名産となっていますが、トレドはキリスト教徒によるレコンキスタで、死守された場所であるので、残留したイスラム教徒、ユダヤ教徒などの文化が色濃く残しているのと、19世紀になって、 Eusebio Zuloaga(1808-1898)という鉄砲鍛冶が出て、現在ダマスカス象嵌の技法を創始したからだとが考えられます。

現在でもトレド・ワークのジュエリーの製作は行われていますが、買うのは観光客だけで、地元の人は身に着けないということです。また、イスラム教徒は世俗的な物に金で装飾するのを禁じられており、さらに現代の職人は単価が安くなるので、金以外で仕事をすることはほとんどないそうです。

いずれにしても、そんな金細工師が生まれたのも、トレドには異文化の交流があり、人々が高い教養を身につけていたからのような気がします。トレドではいまでも素晴らしいモスク、シナゴーグ、キリスト教の教会を同時に観ることができます。

トレドでは職人を養成しているようですが、技術をマスターするのには、10年はかかるそうです。

今のトレドワークは、現代のカメオと同じで、19世紀の物とは大人と子供の差ほどの大きなレベルの差がありますが、そういう物でも、技術をマスターするのに10年は掛かるということです。


トレド バングル 着用

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